その背中、抱きしめて 【下】
電車に乗り込んで数駅。
私の地元駅で、手を繋いだまま降りた。
無言のまま早足で歩く高遠くんについていくのに、私は少し小走りになる。
そのまま家まで行かずに、手前の大きな公園の中に曲がった。
そして公園の奥の方のベンチに座る。
気まずい沈黙。
その沈黙を静かに破ったのは、高遠くんだった。
「あれ誰?」
「…え?」
「さっき誰に抱きしめられてたの?」
いつもより低い声。
そして、いつもより冷たさと怒りを含んだ声。
その声に背筋がゾクッとする。
「…お、同じクラスの男の子」
「抱きしめられちゃうほど仲いいんだ?」
片方の口角が少し上がってるけど、目はまったく笑ってない。
目は怒りに満ちてるのがわかる。
「そ…それは、…私が取り乱しちゃったから宥めてくれるために…」
今の高遠くんは怖いけど、私そんな怒りの矛先にされる筋合いない。
だって…。
「抱きしめられて好きになっちゃった?」
「え…?」
何言ってるの?
本気で言ってるの?
自分は内村さんと仲良くしてて、何で私だけこんな言われ方しなきゃいけないの?
「高遠くんだって知らぬ間に内村さんと付き合ってるくせに、そんなこと言われる筋合いない!!!」
勢いよく立ち上がって、渾身の力で声を出した。
それに連動して止まってた涙がまた溢れ出す。
「もうこんな辛い思いするのたくさん!!!」
それが本音。
もう耐えられない。
こんな辛いの、もう、もう耐えられないよ。
私そんなに強くない。
強くないんだよ----。