その背中、抱きしめて 【下】
家のけっこう手前でスタミナが切れた。
(ほんと走んの苦手…キライ)
ゼェゼェ息を切らせて一旦足を止める。
ピリリリリ。
スマホの着信音にビクッとする。
(まさか高遠くんじゃないよね…)
画面を見ると、洋平くんだった。
「も、もしもし」
『ゆず大丈夫か?…って、ずいぶん息切らしてんな』
「ちょっと今、全力疾走してて…」
息は上がってるし、泣いた後ってこともあって言葉も途切れ気味になる。
『全力疾走って何でだよ』
電話の向こうで洋平くんが笑う。
『しかもまた泣いてんだろ。冗談抜きで大丈夫か?』
今度は心配そうな声。
「はは、大丈夫だよー」
本当は大丈夫なんかじゃない。
誰でもいいから助けてほしい。
この奈落の底から引っ張り上げてほしい。