その背中、抱きしめて 【下】
「おーい高遠、さっきからふかしてばっかだぞー」
羽柴くんがヤジを飛ばす。
スパイク練習が始まって10分、高遠くんのスパイクは見事に全球コートに入らないでラインの外。
サーブやスパイクを大きく打ちすぎて、アウトにしてしまうことを『ふかす』っていうけど、今日の高遠くんはふかし過ぎ。
全然ボールにドライブ回転をかけられてないから、無回転で浮き球になっちゃってる。
(こんな高遠くん初めて見る…)
朝のアレ…が原因だよね。。。
思い出して顔から火が出そうになる。
(無心無心無心…!!!)
「ゆず先輩、翔先輩どうしたんスかね」
相川くんが心配そうに高遠くんを見る。
「あんな翔先輩見たことないんですけど」
「てか、翔先輩がスパイクふかすのすら見たことないかも、俺」
桜井くんも不安げに高遠くんを見守る。
(私だって見たことないよっ)
でも絶不調の原因がアレなんて死んでも言えない。