その背中、抱きしめて 【下】



「相川もスパイク練習入れー」

監督が相川くんを呼ぶ。

そして

「ゆず、桜井のトス見てやってくれ」

って私に指示した。


桜井くんと体育館の端でパスをする。

「さすがセッター、ハンドリング超キレイ!」

柔らかい手首から返されるボールは全く回転しないで止まってるかのよう。

トスのお手本のような返球。


「ゆず先輩だってハンドリングうまいじゃないですか。スパイカーですよね?」

「スパイカーですよー。この程度のハンドリングじゃセッターなんて無理無理」


高遠くんとのパスもすっごくやりやすいけど、桜井くんとのパスもやりやすい。

綺麗な跨線でボールが返ってくるからなんだろうな。


「このまま対人やるよー。次打つからね」

そう声をかけると、今までで1番高くて綺麗な弧を描いたトスが私の頭上に上がった。

(わ…)


打ってみてわかる。

なんて打ちやすいトスだろう。


(ネット際でちゃんとしたトスが見たいな)


早くスパイク練習が終わらないかとソワソワする。


その時。


『ドカン』っていう大きい音が頭のすぐ後ろで鳴った。

それが、ボールが壁にぶつかった音だっていうのはすぐにわかった。

反対コートを見ると、最高にイライラした顔の高遠くん。

と、愕然としてるみんな。


(また盛大にふかしたね…)


高遠くん、重症だよ。

どうしたもんかね…。



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