冷徹社長が溺愛キス!?
スローペースが生んだ災難


ピンクに黄色にオレンジ。
淡いパステルカラーは、見ているだけで癒される。

誰もいない給湯室で八つ並べた一輪挿しに水を注ぎ、ガーベラを一本ずつ挿していく。
今日は、スカートも花に合わせて薄いピンクにしてみた。

四月も半ば。
給湯室の窓から見える公園の景色は、桜色から緑色へとすっかり変わっていた。


「奈知(なち)、もう始業時間過ぎてるよ」


ドアのない給湯室の入口から顔を覗かせた麻里(まり)ちゃんが、片手を口元に当てて囁いた。


「ほんとに?」


濡れた指先を軽く払い、ブラウスの袖口を引っ張って腕時計を確認。
すると、なんと始業時刻の午前九時を十分も過ぎていた。

おかしいな。給湯室に入ってから、もう三十分も過ぎてるなんて。
そんなに経った感覚は全然ない。

シンクに置きっぱなしになっていたお客様用のカップを五つほど洗って食器棚に収納して、自宅から持ってきたガーベラの剪定をしていただけなのに。

もしかして、私の腕時計は調子でも悪いんだろうか。
早かったり遅かったり、きまぐれな動きでもしてるんじゃないか。

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