冷徹社長が溺愛キス!?
「それはその……」
認識してしまった自分の気持ちは、絶対に言えない。
といっても、社長に伝えたところで、鼻先で笑われて終わりだろう。
「支度しろ。早めに出るぞ」
何も言えずに口ごもっていると、社長は自分の膝をトンとひと叩きし、弾みをつけて立ち上がった。
「あ、はい」
起きてすぐ軽快に動けるなんてすごいなと、変なところに感心していると、社長は振り向きざまに「髪の毛、ひどいぞ」とボソッと言った。
「もじゃもじゃだ」
――も、もじゃもじゃ!? 嘘。やだ。
社長のひと言に急いで立ち上がる。
部屋の片隅に置いていたバッグを転びそうになりながら持ち、バスルームへ駆け込んだ。
鏡に映った自分に絶句。
社長の言うように、本当にひどい頭だった。
分け目も無視して、右へ左へ交差する髪の毛。
しかも、ところどころうねっては跳ねている。
自宅で寝ていたって、こんな状態になったことはないのに。
どうして、こんなときに限って……。
髪の毛だけじゃない、顔には右頬にラグの模様らしきものが痕になっていた。
そんな無残な姿が、大きな三面のガラスに映る。
私の人生史上、最も最悪な気分だった。