冷徹社長が溺愛キス!?
「ね、麻里ちゃん、この腕時計――」
「故障なんてしてないよ」
言い終わるより早く、麻里ちゃんが私の言葉を察知して否定する。
その返答のあまりの早さに驚いて、一瞬だけ息を止めてしまった。
「壊れてるものがあるとしたら、奈知の時間の感覚くらいだよ」
呆れ顔が半分、憐みの顔が半分。
麻里ちゃんは、そんな表情を器用に浮かべた。
「ひどいなぁ、麻里ちゃん」
言われ慣れているけど、一応は反論しておく。
麻里ちゃんによると、どうも私はほかの人に比べて、時間がゆっくり動くらしい。
普通の人の十分は、私の感覚だと五分ほど。
つまり、動きが鈍いということになるみたいだ。
そして、そのスローペースは、口にまで及んでいる。
自覚はまったくといっていいほどないけれど、話す速度は麻里ちゃんの半分くらい遅いらしい。
でもそれは、麻里ちゃんが早口なだけだと勝手に分析している。
彼女の名前は、沢木麻里(さわき まり)ちゃん、私と同じ二十七歳。
リスに似た小ぶりな二重瞼の目がチャームポイントで、少しパーマのかかった栗色のショートヘアは活発な彼女にぴったりだ。