冷徹社長が溺愛キス!?
私の勝手な思い込みに過ぎないけれど、トレイダーと聞くと、日々のちょっとした変化にも機敏に対応しなくてはならないから、どちらかというと細身で繊細なタイプをイメージしてしまう。
つまり、大柄でおおらかな久万さんとは真逆の人だ。
思いがけない久万さんの職業に、私は目を瞬くばかり。
「久万さんは、うちのほかにも大企業の大株主でね。業界では有名なトレイダーなんだ」
朗らかな山のクマさんから、敏感なアンテナを持つ出来る男へと、久万さんを見る目が変わってしまった。
「やめとくれよ、純ちゃん。なっちゃんが驚いてるじゃないか」
「……はい、本当に驚きました」
それで納得がいく。
優雅に別荘暮らしを楽しんだりしていることも、奥さんの福子さんが不定期でパン屋を営んでいることも。
きっと、お金に換算したら何億円もの株を持っているからこそできる生活なのだ。
“すごい”のひと言に尽きてしまう。
「これはお見舞いだ」
おもむろに久万さんが取り出したのは、福子さんのパン屋の袋だった。