冷徹社長が溺愛キス!?

「あ、ううん。ないよ。うん、ないの」


助けを求めるつもりで加藤くんを見たものの、被害者の彼が、加害者の私に救いの手を差し伸べるはずもないのだ。
冷めた視線は、まるで氷の矢のように私に突き刺さった。


「沢木隊員、切り干し大根入りの玉子焼きを差し上げますから、僕にアイスコーヒーを持って来てくれませんか?」

「え? 切り干し大根入り?」

「はい。かなりの美味ですよ。いかがですか?」


加藤くんは、使用前の箸で玉子焼きを摘まみ上げ、麻里ちゃんの顔の前に突き出す。


「アイスコーヒーね。今持ってくる」


餌に釣られた麻里ちゃんは、そそくさと席を立ち自販機へと向かった。
これ以上の被害を防ぐためであれば、被害者でも加害者を助けることがあるみたいだ。


「ごめんね、加藤くん」


両手を合わせて謝る。


「本当に勘弁してくださいよ。社内で事実を知っているのは、社長と雨宮さんのふたりだけなんですからね」

「でも、どうして秘密にするの?」

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