冷徹社長が溺愛キス!?

潜めていた息をふーっと吐き出しながら、麻里ちゃんは椅子の背もたれに寄り掛かった。


「よかったじゃない、奈知」

「……え?」

「だって、お見合い相手が彼なら、このままトントン拍子に結婚できるんだし」

「もしや、雨宮さんはその見合い相手のことが好きだったんですか?」


ふたりが“社長”というワードを“彼”と“お見合い相手”にそれぞれ置き換えたのは、普通の声のトーンで話を進めるためだろう。
どっちの言うことにも、すんなりと頷けない私。

このまま結婚するわけにはいかないと言っていいものか。
好きだったと、加藤くんに白状してしまってもいいものか。


「加藤くん、残念。振られちゃったね」

「ですから、何度言わせるんですか。僕は雨宮さんのことを何とも思っていません」


勝手にふたりが話を始める。
それを聞き流しながらお弁当も食べられずにいると、「おい、奈知」と、ほかの人とは聞き間違えようのない声が掛けられた。
速水社長だった。

休憩室の空気が一変する。
麻里ちゃんと加藤くんは、話を途中で止めて目を点にした。

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