冷徹社長が溺愛キス!?

「……あぁ、社長との一件?」


一瞬の逡巡のあと尋ねた専務に、はいと頷く。


「彼、あんな態度をするけど、根は優しいの。だから、怖がらないであげてちょうだい」


三木専務は私の肩にポンと手を置いた。
さすがは大学時代からの友人。
……あ、恋人か。
速水社長に関しては、理解が深いように思えた。


「お花、ありがとうね」


専務は大事そうに花瓶を抱えて、部屋の中へと入って行った。
そして、秘書がドアを閉めようとしたところを慌てて引き留める。


「あの、お手数なんですが……この花瓶を社長室へお願いできないでしょうか?」


残っていたもうひとつの花瓶をそっと差し出す。

『ここは花屋か』と言われたばかりだけど、昨日の謝罪の意味を込めて、社長の分も用意したのだ。
あの社長のこと、いらなければ容赦なく捨てるだろうから。

秘書は煩わしいからいらないと、専属の秘書をつけていない社長。
幹部社員からはつけるよう再三要請されているみたいだけど、スケジュール管理は自分ですると言って聞かないらしい。
うちの部長がボヤいていたのを聞いたことがある。

来客でお茶が必要なときは、三木専務やほかの取締役の秘書にお願いしているらしい。


「承知いたしました」


快く受け取ってもらい、その場をあとにしたのだった。

< 30 / 272 >

この作品をシェア

pagetop