冷徹社長が溺愛キス!?

どういう身体能力をしているんだろう。
その背中は、あっという間に見えなくなった。

木の根っこが時折顔を覗かせているなだらかな道を麻里ちゃんの腕を引っ張って歩いていると、今度は私たちより早いペースの足音が近づいて来た。


「麻里」


名前を呼ばれた彼女は、振り返ると途端に満面の笑みを浮かべる。
ついさっきまで疲れ切った顔をしていたのが嘘みたいだ。

その声の主は、麻里ちゃんの彼氏、桐谷悠馬(きりたに ゆうま)さんだったのだ。
確か、八号車に乗っていたから、急いで麻里ちゃんを追いかけてきたんだろう。

私たちより二歳年上の二十九歳。
マーケティング事業部で、市場調査なんかを担当している。
スラッとした細身で背が高く、穏やかな目元が麻里ちゃんをいつだって優しく見つめる。

私たちの入社式で先輩社員として挨拶をしたのが彼で、そのときに麻里ちゃんがひと目惚れしたのがきっかけだった。
なかなか接点がなくて長いこと片思いをしていたが、一年ほど前に偶然エレベーターでふたりきりになったときに思い切って告白、現在に至っている。


「大丈夫か?」


桐谷さんが、登山の苦手な麻里ちゃんをさっそく気づかう。

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