冷徹社長が溺愛キス!?
一旦振り返って麻里ちゃんに微笑みかけたところで、彼女が大きく開けた口に手を当て、もう片方の手で前方を指差す。
驚いたような表情で、麻里ちゃんは「あーっ!」と声を上げた。
え、なんだろう?
その指は私を通り越しているようだった。
そして、私がゆっくりと前に顔を戻した途端、ドンという衝撃が体を襲った。
「ひゃっ!」
思わず小さく悲鳴を上げる。
それと同時に安定性の悪くなったトレーの上では、一輪挿しがドミノ倒しのごとく倒れていった。
トレーの上から滴る水。
人にぶつかったのだと気づいたのは、私の目の前に立ちはだかっていた黒い人影を目にしたときだった。
「すみません!」
咄嗟に頭を下げて謝る。
「ここは花屋か」
聞き覚えのあるテノールの声が響いて、ハッと顔を上げた。
「……しゃ」
「社長! 申し訳ございません!」