冷徹社長が溺愛キス!?
私が謝罪の言葉を発するより早く、麻里ちゃんが私の隣で謝る。
彼女は、二メートルほど空いていた私との距離をほんの一瞬で移動するという技を見せてくれた。
ワープでもしたみたいだ。
『すごーい麻里ちゃん』と心の中で拍手を送る。
……いけない。
麻里ちゃんに驚いている場合じゃない。
私がぶつかったのは、我が社【ピュアネットジャパン】の社長、速水純(はやみ じゅん)だったのだ。
きりっとした眉に、切れ長の目の間を通る鼻筋は細く、薄いけれど輪郭のはっきりした唇という、贅沢なくらいに均整のとれた顔だ。
アッシュブラック系カラーのショートレイヤーの髪型が、その顔立ちをさらに引き締める。
学生時代にラグビーで鍛え上げられた体もさることながら、よく響く低い声も素敵だと、社内では女子からの人気が高い。
新進気鋭の若社長であり、容姿も声も良し。
三拍子揃った優良株ということらしい。
ただし性格に難を抱えている。
傲慢でわがまま。
周りを振り回すことに生きがいを感じているとかいないとか。
自分の道をひたすら突き進むイノシシに、よく例えられている。
さすがに神様も、すべてを与えるわけにはいかないみたいだ。
それでも、花の栽培以外に取り柄のない私に比べれば、神様からかなり優遇されていると思う。
もっとも、私は接したことがほとんどなくて、噂でしか聞いたことはないのだけど。