冷徹社長が溺愛キス!?

久万さんは手を叩いて喜ぶと、私たちを大きな四駆の後部座席に乗せてくれた。

エンジンが掛けられると、カーステレオから大音量で歌が流れ始める。
それが流行りの女性アイドルグループだったものだから、ちょっと面食らってしまった。


「あ、ごめんごめん。ちょっとボリュームを下げよう」


ルームミラーで私と目の合った久万さんは、すぐに音量を絞ってくれた。

それでも変わらず流れる歌。
しかも、車が動き出した途端、久万さんがそれに合わせて歌い始めた。
鼻歌なんてレベルじゃない。

私たちがいることも全然関係ないみたいだ。


「いつもこうなんだ」


社長が私の隣で笑みを浮かべる。


「あ……そう、なんですか……」


森のクマさんならぬ、山の久万さんは、たまに振り付けも交えながら、気持ち良さそうに体を揺らしている。

アップダウンの激しい山道だけに、運転が心配になってしまう。
でも、隣の社長がゆったりとシートに体を預けているところを見ると、そういった点は心配なさそうだ。

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