アメトムチ。
かと言って、野々瀬局長に別の彼女の影がちらついてる、ということはない。
他に好きな人がいる節だって、全然見当たらない。
彼の場合、好きなのは「人」じゃなくて・・・。

ズバリ、仕事!

「俺は24時間仕事に直結してる」と言う野々瀬局長は、そう自分で言いきるだけあって、本当によく仕事をしている。
彼の主な仕事は、ゲームソフトの開発。
だから、アイデアがひらめいたその瞬間から、彼は自分の世界へワープする。
時間や場所は関係ない。
そのとき何をしていようが、私や誰かとしゃべっていようが、「きたきたぁ!」と思った途端、自分の仕事部屋へ籠るのだ。

野々瀬局長のお宅へ初めてお邪魔した日、彼の「それ」に初めて遭遇してしまった私は、最初、訳が分からなかった。
だって、ついさっきまで局長と好きな本の話をしてたのに。
局長、いきなりスクッと立ち上がった?
と思ったら、「ごめん。エーデルきた。てきとーにやってて」とスタスタ歩きながら言って、仕事部屋へ行ってしまったから。

もしかして私、取り残された?
と気づいたのは、野々瀬局長が「仕事」を始めて3分後のことだった。

< 49 / 78 >

この作品をシェア

pagetop