飛梅ちゃん

賢人は、部屋に戻るとスーツの上着をベッドの上に放り投げて、立ったまま電話をかけ始めた。

「蘭丸か？」

相手は同じホストの蘭丸だった。

「どうしました？」

蘭丸は、少し息の荒れた賢人の声に動揺した。

「お前、幽霊を見たって本当か？」

「えっ？あぁ…まぁ…」

「どんな幽霊だ？」

「えっ…と…小さい女の子…おかっぱ頭の…赤いワンピース着てましたけど…」

「俺の後ろをついて回ってたのか？」

「アイツに聞いたんですか？」

「どうなんだ？」

「言うなって言ったんですけどね…あの女の子の霊、賢人さんとは関係ないと思いますよ？」

「どういうことだ？」

「賢人さんの真後ろについてないし、だいたい控え室前で見ることが多いし、たまたまだと思いますよ？」

「蘭丸！本当にそう思うか？」

「不安なら、霊能者を紹介しましょうか？知り合いに詳しいヤツいるし。」

賢人は、落ち着いたのかベッドの上に座って話はじめる。

「そうだな。考えとくよ。」

蘭丸は、賢人が落ち着いたのを感じたのか言った。

「何かあったらまた言ってください。」

賢人は、蘭丸の言葉に安心したのか目を瞑り言った。

「わかった。じゃあな。」

電話を切ると、そのまま賢人はベッドに背中を倒して大きくため息をついた。

「はぁ～！」

と息を吐くと、目を開いた。



賢人は意味がよくわからなかった。
目の前に何があるのか理解できない。

部屋に声が響く。

「見ぃつけた…」

賢人は、耳を疑う。
それと共に目の焦点が目の前のモノに定まる。

おかっぱ頭の女の子の顔が目の前にあった。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ～～‼」


賢人は逃げるように立ち上がり部屋の扉まで走ってベッドを振り返る。

そこには、自分が脱ぎ捨てたスーツしかなかった。

「なんだ？」

冷や汗をかきながら賢人は一人呟く。

「もうすぐだね…」

賢人は、自分の右足元から声が聞こえてきたことに気づく。

目線をゆっくりと、足元に下ろすとおかっぱの女の子がニコニコしながら座っていた。

「あ…あ…あぁぁぁ…」

賢人の表情が一瞬で青ざめ固まる。

その顔を先程までニコニコしていた女の子が無表情で見あげる。

そして、ゆっくりとそこにはまるで何もなかったかのようにかき消えた…