飛梅ちゃん
30代半ばのジジイの相手が終わり、控え室に戻ると、『ビリーブ』の売上ナンバーワンの女がいた。

名前は『ゆずか』

黒髪ロングでとても綺麗な顔をしている。彼女目当てのお客がほとんど毎日頻繁に入る。
それは、19歳という年齢で知識があり、どんな話題にでもついていける才能と、お金でお客を選んでいないという感覚が彼女のナンバーワンを支えているのだ。
この店では、もったいない程の逸材だと店のオーナーからも言われている。

あいから見ても、とても敵う相手じゃないのは解っているが、色んな客にチヤホヤされ、店の店員からは信頼されているのが無性に腹が立つのだ。

あいは、L型に並ぶソファの、ゆずかの左斜め前に座った。

ゆずかがあいに声をかけた。

「お疲れ様です。あいさん」

あいは、この店では古い組に入る。
先輩に対しての余裕な声かけに腹が立つ。

ゆずかは、続けて言う。

「明日からのイベント、どんな格好にするんですか?」

明日から3日間はコスプレイベントで、たくさんのお客を呼ばなければならない。

あいは、ブスッとして答える。

「ミニスカ…ゆずかは?」

「チャイナドレスか、メイドさんか迷ってます。」

あいは、チャイナドレスが男性受けしないのを知っていて言った。

「チャイナ良いんじゃない?似合うと思うよ。」

ゆずかは、笑顔で言った。

「チャイナドレスって綺麗ですもんね!この間、紫の綺麗なチャイナドレス見かけたんです。それにしようかな!」

扉が開いて、また一人女の子が入ってきた。

ゆずかが言う。

「お疲れ様です。アゲハさん。」

アゲハと呼ばれた女は、ゆずかの横に倒れ込むように座る。

「あ~!疲れた!ゆずか助けて!飲み過ぎた!」

あいは、携帯を鞄から取りだしながらチラッとアゲハを見てこう思う。

【ゆずかグループの裏ボス アゲハ…気持ち悪いんだよ!】

ゆずかは、アゲハの背中を擦りながら言う。

「もうすぐ帰れますから、頑張って下さい!お水持って来ますね。」

そう言うと、ゆずかは控え室を出て行く。

アゲハは荒い呼吸をしながら、あいを見る。

あいは、視線を感じ携帯からアゲハに目をやる。

「なに?」

アゲハが座り直しながら言った。

「あいちゃん…寮のお金ちゃんと払わなきゃダメだよ。」

「はっ?」

「聞いてるよ?ガスとか電気代を他の女の子に払わせてるって。」

この『ビリーブ』には、いろんな事情の女の子がやってくる。
そのため、店はファミリータイプのマンションを借りて寮として女の子達にシェアさせている。
賃料は、お店が払うがガス光熱費は、女の子達が払うというルールだ。


「なに言ってんの?誰が言ったのそんなこと!」

扉がガチャリと開いて、ゆずかが水が入ったジョッキを持って入ってきた。

「アゲハさん大丈夫ですか?ボーイさんに言って送りの準備してもらいましょうか?」

ジョッキをアゲハに渡すと、アゲハの隣に座るゆずか。

アゲハは、あいを睨む。

あいは、手に持っていた携帯を見る。

変な空気になっているのに、ゆずかが気づいて。

扉まで小走りで行き、ボーイさんを呼んだ。

「アゲハさん気分が悪いみたいだから、やっぱり帰らせてあげてくれませんか?」

ボーイは、頷くと店長に報告しに急いだ。





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