キャンバスと太陽
「篠宮の絵って、他の油絵となんか違うよな」
「一般の人は風景とか、人物が多いけど、私の絵は油彩で描くデザイン画みたいなものだからね」
イーゼルの横にグラスをひとつ置き、もうひとつに口をつけながら答えた。
「そんなことしていいのかよ」
松浦は笑いながら、コップに入ったお茶を一気に飲み干した。
軽くバカにされた。
「絵にはルールとかないの。スポーツと違ってアートは自由なんだから」
紗織は怒ったふりをしながら答えると、松浦もむきになったようにこちらを向いた。
「ハンドだって自分次第でプレイの仕方は自由だからな!」
「そう?型どうりに行動するのがスポーツって感じだけど」
「わかんねえ奴」
松浦も怒っているわけではなかった。
アートとスポーツ
正反対の才能を持った2人は価値観は違えども、互いの才能を尊敬し合っていた。
ひとつのことに対して一心不乱にのめり込むところが似ているからでもあるだろう。
「んじゃ、そろそろ行くわ」
そう言って窓から出て行こうとする松浦を、紗織は慌てて引き止めた。
「ちょっと!ドアから出て行ってよ!」
それでも松浦は、紗織の言うことを聞くそぶりを見せない。