キャンバスと太陽
答えながら、二階の窓からひょいっと飛び降りた。
怪我をしてないか心配になった紗由美は窓から身を乗り出すが、その心配をよそに、松浦は慣れたように着地している。
「来週はなんか作ってこいよ。部活終わりにスカッとするやつ!」
「……考えとく。熱中症には気をつけてよ!水分補給と一緒に塩分も補給するんだよ!」
「おかんかよ。じゃあな!」
手を振って走って行く姿に、紗由美も小さく手を振った。
急に静まり返った美術室はなんだか寂しく思える。
こうして会えるのも、あと半年くらい。
松浦隼人はスポーツ科のある高校へ
篠宮紗由美は芸術科のある高校へ
それぞれが別々の高校の推薦をもらっていた。
高校生になると、もう会えないだろう。
さてと……
「見物料とるよ。美里」
ドアの向こうで聞き耳を立てていた親友―紺野美里を呼んだ。
「うそ、バレてた?完全に気配消したと思ったのに」
「バレバレ。はぁ……今日は来客が多いなぁ」
美里は吹奏楽部。サックスのパートリーダー。
よく音出しで美術室を使いにくる。
今日もそんなところだろう。
「練習しようと思ったら、かわいい会話が聞こえたからさ。ごめんね」
全く反省していない。
と言っても美里が聞き耳をたてることはよくあるので、こちらもいちいち気にしない。
「練習するのはいいけど、私もう帰るから、鍵返しといてよ?」
「オッケー」という返事と同時にサックスの音が美術室に鳴り響く。
サックスの音色は、音出しから文化祭で演奏する曲に変わった。
しかし、いよいよサビの部分に入るというところで、美里は演奏をやめた。
「それで?2人はいつ付き合うのよ?」
沙織は手に持っていた筆の束を危うく落としそうになった。
「ちょっと!サビ直前に演奏やめてまで言うこと?いいとこだったのに……」
「二人とも仲良いじゃん。付き合ったらお似合いだと思うよ。あんたたちは私と違って受験ないから冬は暇なんでしょ?付き合っちゃいなよ」