いつかそんな日がくればいい。【短】
失恋した二人
俺はたった今、失恋しようとしている。
「こいつ、貰っていい?」
そう聞いてくるのは、俺の好きな子が今まさに恋をしている相手、"黒崎"。
まぁ、本人の口から好きだと聞いたわけじゃないんだけど、多分…いや、絶対にそうだ。
「いいけど……、白田さんどうするの?」
そしてもう一人、ここには失恋をしようとしている人物がいる。
その子は神社の階段の上から、黒崎と、黒崎に抱かれる彼女、"吉川"を悲しげな瞳で見詰めていた。
「……松田。後は頼んだ。」
「えぇ~!!」
そう言って、少し申し訳なさそうに笑った黒崎は、吉川を抱いたままあっという間に祭りの雑踏の中に消えていった。
と、ここで俺の失恋は確定したわけだ。
そして、彼女も–––
俺は、階段の上に立ち尽くす彼女に目を向ける。
黒崎達が消えて行った方を時間が止まったように見詰める彼女の横顔は、
提灯の灯りに仄かに照らされて、とても儚げだった。
同じように失恋したよしみだし、彼女の気持ちが分かるからかな。
妙に胸がざわついた。
黒崎…どうしてくれるんだよ…。
"後は頼んだ"ってお前。
俺も失恋したばっかなんだぞ?
人を慰めてる余裕なんて…。
俺は、はぁーっと深い溜息をつく。