いつかそんな日がくればいい。【短】
憂いを帯びた表情でそう言った彼女の手は、少し震えていた。
好きだと言われたわけじゃないのに、俺の気持ちは高揚している。
「うん。来年も行こう。お祭り。
来年も、再来年も、その次の年も、俺がリンゴ飴を買ってあげるよ」
「そ、そんな先のことまで分からないわ!まだ、自分の気持ちすら分からないのに…」
「でも、来年も俺と祭り行きたいって言った」
「そ、それは!りんご飴がっ…きゃっ」
良い香りがする。
りんご飴みたいに、甘くて優しい香りだ。
俺は、掴んでいた彼女の手を強く引くと、そのまま自分の胸の中に収めた。
早いリズムで刻まれる心臓の音が、彼女に届いてしまえばいい。
そうしたら、俺が彼女のことをどれだけ好きになってしまったか、分かるだろ?
「松田く…」
「今はいいよ。分からなくても」
今、君の気持ちがどこにあろうと、
それがまだ、黒崎に向かっていたとしても、
それでもいつか、君のその痛みが癒えて、
俺だけを見てくれるそんな日が…
「いつか、絶対に俺のこと好きって言わせるから」
「……っ!!」
いつかそんな日がくればいい。と。
そう思うから。