発狂詩集 血液collection
沈香と怨嗟
炉の中の沈香が
君の着物に移っていて
その着物だけがこんな夜に
俺の傍らで眠っている
美しい指先からこぼれ落ちる
葉の色を思い出しながら
ベッドの上で香る抜け殻に悶える
逢魔が時の飛び石に立ち
振り向いたその顔の憂いが
一晩中俺のことを考えていた
その苦悩の残り香を聞くようで
その征服感に悶えた
これから先の長い時間
俺は上り詰める
寸門陀羅は君の香り
頭頂に抜けるような清冽な
こんな清しいものでこの身が
こんなに淫らになる
卑怯なのは君?
捕らえたはずの心を
掴んだ俺の指が震える
逆流する血液で戦慄く心臓
壊して欲しいほどの衝動
埋め合う隙が己にあったことを
今更ながらに驚くのだ
気づかなかった愚かさと悔しさ
孤独など子供の戯言と
言い切っていたひと月前が懐かしい
引き返せない道を遠くに見やる
頑なな君の口から
俺が欲しいと吐かせるまでの
抜け殻に顔を埋めて
呼吸の半分を忘れた
窒息の中に怨嗟のような音を聞く
俺は君の全てが欲しいんだと