そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
私は、言葉を切って言う。
「優人、私まだ何も言ってないよ」
「俺には、すでに宇宙語に聞こえる。三分で眠くなる自信があるよ」
「わかった。じゃあ、具体的に説明して行こうか?」
説明なんかしなくていいから、さらっと通り過ぎるつもりじゃなかったっけ?
なに説明してるのよ。
「ああ、ありがとう。助かるよ」
サンキューといいながら、パラパラと資料をめくる指が、行き詰まってトントンと机を叩く。
私も長谷川さんと同じ意見だ。
『分かる人には研修は必要ないが、これを見て理解できんやつには、数時間の研修じゃ無理だ』
「うわっ、俺、もう絶対無理」
最初の意気込みはどうしたのか、優人は素直に自分の力不足を認め、協力して欲しいと伝えて来る。
素直に意見を言うから、言われた方もすんなり彼のやりやすいように、方法を変えようという気になるんだろうな。
私は、優人の目の前にあるファイルに手を伸ばし、最初のページを開いた。
「何?この膨大なファイルは……」
優人は、ファイルを最後までめくってみて、これが最後ではないと気が付いた。
「何って、契約書。さっき言ったでしょ?契約書の作成・修正の方法を学ぶの。とりあえず、マンションの例から」
彼は、もう一度、置かれたファイルを手に取り、中身をパラパラとめくったけど、すぐにファイルごと投げ出した。
「あ~あ、もう、やってらんない」
「諦めるの早すぎだよ」
私は、ファイルを閉じ、もとの位置に戻す。