そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~


「長井も頑張ってるけど、長谷川さんのような人には敵わないよ」

「ふ~ん」面白くない顔。


優人は、やる気なさそうにファイルをちらっと見る。


「亜湖は、長谷川課長を買ってるんだな。どうして?そんなに彼のこと気に入ってるの?」


「優人がここに来るまで、一緒に仕事してたんだもの。そりゃよく知ってるよ」


「いや、そういう意味じゃなくて」


「ん?」


「あのひと、こういうの覚えるのが得意だった?それとも、君が彼にだけ特別に教えたの?」

どうしたの?トゲのあるいい方……


「特別に?どういう意味よ。何よ特別って。そんなことするはずないじゃないの。
そもそも、課長は私の助けなんかいらないって言ってたくらいだし」


「ふん」


「何?優人?もしかして、どうしても覚えられないから、特別なやり方で教えてほしいってこと?」
私は、笑いなからいう。


「こんなの覚えられるかよ。何か、こう、すぐに頭に入る方法ないか?」


「そんなもの、あるわけないじゃん。地道に頑張るだけ。それとも、降参して次の研修先に行く?」



「そんなこと、するわけないだろ?」


煽れば、向きになるのは分かってる。


優人は、無理だとか、受け付けないと思ったものでも何とか理解しようと必死になる。


入社してすぐ、優人と最初に配属された作業所が同じだった。
気さくで人当たりのいい彼は、冗談をいいながら、すぐに気難しい職人さんたちの中に入って打ち解けた。


こんな風に、慣れない仕事で頭をかきながら一生懸命な姿を見ると、どんな頑なな気持ちを持った人でも手を差し伸べようとする。

そういうとこは、とても敵わないし、あんたの良さだよ。と思った。
< 38 / 173 >

この作品をシェア

pagetop