そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
「亜湖……」
隣の席に私が座ると、彼は背筋を伸ばして座りなおした。
彼のそんな仕草に、私の方が緊張してくる。
「どうしたの?」
彼はまっすぐ私を見据えてる。
にこやかに、今にもこっちへおいでよと言ってくれそうな顔して。
「えっと、俺……亜湖と仲直りしたい」
言いにくそうに彼が言う。
「仲直り?」どうして?
驚いて、彼の顔を見つめる。
優人の真剣な顔つきを見てると、私は気分が沈んでくる。
仲直りって?どうして?
「うん、今みたいに。亜湖と話がしたい。気まずくなる前の俺たちのように、何でも話せる間柄に戻りたいんだ」
顔が強ばってる。
緊張して、それを隠すことができない。
なんでも話せる間柄って、なによ優人。
友達に戻るってこと?
そうだよね。
それとも、一緒に働くただの仕事仲間に戻るっていうの?
優人本気なの?本当にそれでいいの?
嫌だ。嫌だよ……私、そんなの嫌だよ。
こんなに時間が過ぎても、私だけは特別でいたいのに。
そうじゃなくなるってこと?
そんなの受け入れたくないよ。優人。
ねえ、言ってる意味わかってる?
私、まだあなたのこと好きなんだ……
だから、友達だなんて言わないで。お願い。
聞きたくなかったのに。
大丈夫だった?
あれからずっとどうしてるか心配だった。
元気そうでよかった、とか。
もう、俺いなくても大丈夫そうだね、とか。
そんなこと言われたくないよ……
聞きたくない。
嫌だと言って逃げてたのは、私の方だけだ。
仲直りしよう……
君は、もう彼女じゃなく、ただの同僚。
いつまでも、前のこと引きずらないでくれ。
そういうこと?
そう言われたくなんか、なかったんだ。
優人、私、そんな話、聞きたくない。
だから私は、優人を避けていたのに。
なのに、優人は……
恋人に戻りたいわけじゃないんだ……
「わかった。優人がそうしたいんだったら、そうするよ」
そっか。同僚に戻るんだ……
これで、
私達、恋人じゃなくなるのかな。
私は、彼の差し出した手に応えた。
少しは、笑えたかな。
さようなら、彼氏としての優人……
私は、彼の手をしっかりと握った。
私、やっと、
昔の彼に、別れを告げることが出来た。
長かった。3年もかかるなんて。
でも、辛いよ。
いったい、私。明日からどうやって生きて行けばいい?