そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
8階管理部の応接室は、内部向けの会議用スペースと違って、接客もできるように部屋もゆったりとしていて、ふかふかのソファーとテーブルが置かれている。
この部屋は、法務部だけでなく、他の管理部も共同で使用している。
私たちが、中に入った時、
法務部の秋山部長は、すでに応接室の中にいて、部屋の隅の観葉植物に水をやっているところだった。
秋山部長は、七福神の恵比須様のように、恰幅のいい体型で親しみやすく、いつもにこにこしている。
私達が来たことを確認すると、すぐに観葉植物の方に視線を戻した。
部長の丸々とした指には、安物の緑の樹脂でできた小さなじょうろが、握られて余計に小さく見える。
部長は、緑のじょうろを持ったまま言った。
「まあ、座りなさい」
部長は、私たちにソファに座るよう勧める。秋山部長は、いつもニコニコしている。
私達のような、普通の社員に、部長が厳しいいい方をしているところを、見たことがない。
私は、長井と二人で応接室に呼び出され、並んで座らされた。
何で呼び出されてるんだろう?
長井にもそう尋ねたけど、
「知らないよ」って言うだけだった。
部長というのは、オフィスで通りすがりに挨拶するくらいで、普段は私たち平社員とは、まったく接点がない。
だから、いきなり部長から呼び出しされてると聞かされても、いったいなぜ呼び出しされてるか見当もつかない。
普通に考えるなら、何か、とんでもなく大きな失敗をしたとかだ。
しかも、長井と一緒だなんて。