そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
それに、これから部下を叱るのなら、部長の恵比寿顔の意味が分からない。

何だろう……。

部長が長井のことを、嬉しそうに見る。

「久しぶりだね。どうだった?関西は」

秋山部長は、よっこいしょっと、ふかふかした一人掛け用のソファに腰を下ろした。

久しぶりに実家に帰ってきた息子に話しかけるように、身を乗り出してる。


「はい。いろいろ貴重な経験をさせてもらいました」

部長は、長井の話を聞いて、そうか、そうかと息子の成長を喜ぶように目を細める。


「君たちは、仲がいいね。それから、後藤君から聞いたよ。確かに契約書の中身をずっと見ても頭に入らないし、効率が悪いか……」


「はい。関西では、すでに管理部門と連携して現場にかかわるというプロジェクトの、効果が出ています。こちらでも試してみる価値はあると思います」


長井は、部長の質問に即答する。
私が答える前に、長井が答えた。

「あの…」
私は、長井の反応に、不満を漏らす。


そんな話、何も聞いてないわよ。仲がいいとどうなのよ。
私は、長井の顔をちらっと見る。


彼は、私の視線に気が付いて、これ以上ないほどの愛想のいい笑顔を私に向けた。


「いったい何の話?」
私は、長井の肘を突っついた。小さく彼にだけ聞こえるように言う。


「緑川さんとは、同期ですので。気心は知れてます」
長井は、私の事、無視して、自分の発言のフォローをする。


「一緒に仕事するなら、仲がいい方がいいからね」
部長が、そうか、そうかと満足そうに頷く。


「一緒に仕事するって?」
私は、長井にも聞こえるように言う。


彼は、私のことをさらに無視するように、部長に同調する。

「はい。部長、無味乾燥な契約書類ばかり見てても、全然頭になんか入りません。

ですから、部長がおっしゃるように、経理や法務の担当者が最初から、打ち合わせに参加してプロジェクトに関わってくれるのは、とてもいいことだと思います。実はすぐにでも始めたいんですけど」


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