そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
「亜湖、ちょっといいかな」


「やだ」


長井が勝手に何か始めようとしている。私を巻き込んで……

「緑川君と組んで事務方としてプロジェクトのサポートに当たってくれる?」
ってなによ。全然、聞いてないわよ。



「待てよ」

「嫌です。勝手に何かに巻き込もうとしてるでしょ?」

「待てよ、亜湖!」
彼は、私の腕をぐいっとつかむ。



「やめてよ、私あなたの彼女じゃない。気安く触らないで」

「ごめん」
腕を振りほどいて、彼から遠ざかる。


「待てったら」長井が追いかけてくる。



私は、彼に追い付かれないように、急ぎ足で歩いてるのに、彼は、憎たらしいことに、引き離しても、長い足ですぐに追い付いてくる。



「ねえ、私部長から聞いた話、何にも聞いてないよ。だから、さっきの部長が言ってた件は…受けるかどうか分からない」


「その事は、後で話そう。亜湖、腹へっただろう?」

そうやって、罪のない顔をして。また話をはぐらかす。

長井が、私を見て、
にこにこしながら言う。

部長のにこにこが移ったのか?
腐れ縁の女にサヨナラできてうれしいの?


そうだ。
この人の笑ってる顔なんかに、意味はない。




「減ってない。お腹なんて減ってない」

私も向きになる。
とにかく、食事は一人でする。


「本気かよ。嘘だな。亜湖、腹へった時、そうやって唇噛み締めて、固くするだろ?」


「嘘っ?そうだっけ?」
私は、指を当てて唇をごしごしふく。
そうだっけ。

知らなかった…


「おごってやるから、来いよ」
彼は、私を追い越していき、そして長い脚で、私を置き去りにしそうな勢いで歩いて行った。

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