そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
「あっ、主役の登場だ」太田さんが思わず口に出した。
まあ、その場の雰囲気としては、そんな感じだ。
お酒が入って、近くの席の人と話してたり、ビールをついで回ってる人、それぞれにグループができていて、部屋の中は人の声で雑多としていた。
その中を、彼は、周りに声をかけられながら、予め用意された席に座った。
由奈ちゃんが、用意した席は、私の席から遠くて大きな声で話しかけても、声が通らない位置になった。もちろん、その方がよかったけれど。
「人気者だよな彼。あれで結構モテるし。どこ行っても、長井さんと知り合いですか?って聞かれる」
「長井の事?」
「そう。あの通り背も高いし。ほら、この中でも、彼に近づきたくて、ビール持ってじっと機会うかがってる子もいる」
「へえ、そうなんだ」
「けど、誰と付き合ってるとか、聞いたことある?あんまりそういう噂、聞かないな」
「彼のこと、気になるんですか?」
「いやあ、へんな意味ないよ。あいつ、どういう子選ぶんだろうなって。あの中からだって選び放題じゃないか。俺ならあの、ショートカットの美人かな」
「由奈ちゃん?」
「由奈ちゃんっていうのか。きっとあの子だな」
「さあ、どうするんでしょうね?」
長井は、輪の中に入って、早速、由奈ちゃんの仲間の子たちに囲まれている。
その中の一人にビールを注がれて、グラスから溢れそうになって慌ててグラスに口をつけて飲んでいるところだ。
「そうね。どうでもいいことでしょ」
「ああいうの、好みじゃない?」
「そうですね……彼のことは、格好いいって思うけど」彼の良さは、見ためじゃない。
長井のいいところは、外見だけじゃないのに。
「じゃあ、緑川さん……俺みたいんでも、可能性あるかな」
「ええ。あると思いますよ」
「そっか、よかった」太田さんは、正座していた足を崩して胡坐をかいた。