そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
「亜湖ちょっと、いいかな?邪魔してすみません、太田さん」
私の後ろから声がした。
「なんだ、お前?どうしてこんなとこにいる?」
太田さんは、突然現れた長井の顔を迷惑そうに見ている。
長井の方は、太田さんの態度なんか、まったく気にしないで、完璧な、営業スマイルを振りまきながら、強引に私と太田さんの間に入り込んでくる。
長井、顔では笑ってるけど、あああいう態度の時は、多分、本気で怒ってる。
「さっき、課長から電話がかかってきて、トラブってるみたいなんです。後藤課長が亜湖のこと探してるんです。太田さん、なのでちょっと亜湖のこと借ります」
太田さんが、長井に食ってかかる。
「おい、ちょっと待てよ。トラブルなんか、お前ひとりで大丈夫だろ?」
「すみません。後藤課長がそう言ってたので。私では、なんとも……」
長井が、本当に申し訳なさそうにいう。
「太田さん、大丈夫です。心配しないでください。亜湖は、俺が連れてきますから。亜湖、さあ、早くいくよ。課長が待ってる」
「太田さん、すみません」
長井は、もたもたしてる私の背中を力一杯押した。
太田さんが、ついて来なくなってから、長井が言った。
「ちゃんと歩ける?」
「うん」
「太田さんにああ言っちゃったから、とりあえず会社に向かって歩くよ」
「うん」
「大丈夫か?どこも痛くない」
「うん」
痛くはないけど、目が回る。ついでに、頭もくらくらする。
長井が横に居てくれる安心感で、気が抜けたのかな……酔いが回って来てる。
周りには、あんなに強引にどこかに連れて行こうなんて人いなかった。
「やっぱり、長井、ちょっと待って……私、少し酔ってるから、もう少しゆっくり歩いて」
足元がふらついて、私は、横にいた長井の腕に捕まった。