現代妖怪会談
犬神が手をひとつ叩くと言った。

「雪女とか、一本ダタラは地方で有名処と言って良いんじゃないが?」

キツネが鼻を掻きながら言う。

「雪女は知らないけど、一本ダタラは大台ヶ原で有名ですな。」

タヌキが体を起こしながら言う。

「ちょっと待て!一本ダタラは、足腰が弱ってほとんど活動してないけど?」

キツネがタヌキを見ながら言う。

「あれ?そうなんですか?」

タヌキが座り直すと言う。

「お前ら知らんのかいな?一本ダタラが怖くて山に入る人間が減って、信じる人間が減ってから、一本ダタラの体もかなり弱ってるって聞いたんやけど。」

犬神がタヌキに聞く。

「雪女の情報はないのかや?」

タヌキは言う。

「雪女は聞いたことないわ。」

キツネがお腹をさすりながら言う。

「お腹が減りませんか?」

タヌキが言う。

「結構、前から減ってるで?」

犬神がほっぺたを膨らましてから言う。

「ワシは、そこまで減ってないがじゃ。」

キツネは、立ち上がるとお堂の奥にある多聞天の仏像の方へ歩いて行く。

仏像の後ろに上半身を突っ込むと、ゴソゴソしたあと一つの大きな風呂敷包みを取り出してきた。

キツネは、風呂敷を両手で持ちながら歩いてタヌキと犬神の前に置いた。

タヌキが風呂敷を見ながら言う。

「なんなんや?」

キツネは、風呂敷の結び目をほどきながら言う。

「猫又の若い女の子達が作ったおにぎりです。」

犬神が風呂敷が開かれるのをジッと見ながら言う。

「猫又やが?」

タヌキがキツネを見ながら言う。

「火車とちゃうやろな?」

キツネは、笑いながら言う。

「ハッハッハ…いやいや、火車にはまだなってない若い女の子達ですよ。」

キツネが包みを開けると、ゴロゴロとおにぎりの山が表れ、それを見て犬神が言う。

「あの柔らかい肉球で握ったって聞いたら、興奮する輩もいるかも知れんがじゃ。」

タヌキが包みの中にあった、ラップに包まれているおにぎりを手に取り言った。

「興奮するような若くて力強い妖怪は、おらんもんかね?しかし、若い妖怪ならラップというのはテンションが下がるんと違うか?」

キツネもおにぎりのラップを開けながら言う。

「やっぱり、素手でにぎるからこそ伝わるモノもありますよね。」

犬神は、無言でおにぎりを食べる。

タヌキが二つ目のおにぎりを頬張りながら言う。

「鮭が上手い。」




< 10 / 18 >

この作品をシェア

pagetop