健康診断の甘い罠
「お、高倉歩になってる。高倉さん、色んな人にめっちゃ絡まれてたよ。もう嫉妬と羨望の嵐」
「結城さん、面白がってますね。あ、千紗ちゃんスピッツ作るよ」
そう言って血液をいれる容器に貼るシールを機械から出すために高倉さんは背を向ける。
それを狙っていたかのように、その人はなぜか私の名札を掴んだ。
「……山口千紗ちゃんていうんだ」
驚いてその人を見ると、吸い込まれそうなほどに澄んだ黒い瞳がじっと私を見ている。
かっこいい人だなと思った。
背が高くて、顔が小さい。猫みたいなつり目がちの瞳に薄い唇。ちょっと冷たそうだけど、すごくモテそうな人だ。
じっと顔を覗きこまれて、ちょっと怯えてしまう私を見てその人は目を細める。
「初めて見るけど、新人さん?」
耳に残る低い声に何だか身体に力が入ってしまう。