健康診断の甘い罠
「ああいうのはね、見なかったことにしてよ」
「和弥くんの色んな顔見れるのは嬉しいけど、そうしとく」
そう言うと和弥くんはちょっと悔しそうな顔をして、ニヤッと笑った。
嫌な予感がして逃げようとする私の肩を和弥くんがぐいっと引き寄せる。
私、和弥くんには危険察知できないかもしれない。
顔を近付けた和弥くんが目を細めて私を見る。これは、意地悪する時の笑い方だ。
「じゃあ、忘れちゃうくらいいっぱいキスしよっか。さっきよりずっと濃ーい、キス」
「い、いや。もう……忘れちゃった、かな」
そう言う私を見て和弥くんが勝ち誇った笑顔を見せる。もうこれ、何回目だろ。
「やっぱり俺に勝つなんて十年早いね、千紗」
そう言った和弥くんが更に私を引き寄せる。
「だから、大人しくキスされてね。俺のキスの仕方、ちゃんと覚えて」
そう言われて私は大人しく目を閉じて、和弥くんの唇が重なるのを待つ。
そんな私に、小さく笑った和弥くんがまた顔中にキスする。
「千紗の初めては、全部俺のものだよ。全部、全部ね」
唇が重なる瞬間、そう呟いたその言葉に目を開くと、私を見て目を細めた和弥くんと目が合った。
それが、獲物を捕らえた肉食獣の目に見えた。