健康診断の甘い罠
もう一度唇を噛んで、私は今度こそ引き返したけど頭の中はその人が言った言葉が渦巻いていた。
戻ってきた私を見て、一ノ瀬さんが微笑んでくれてちょっとホッとしてしまって泣きそうになる。
それを見て一ノ瀬さんは慌てた顔をして私の手を引いて廊下に出た。
「ちょ、どうしたの千紗ちゃん?結城さんと何かあったの?」
「和弥くんとは……何もないんですけど。なんかちょっと、意地悪されたかもです」
さっきのトイレでの出来事を一ノ瀬さんに話すと一ノ瀬さんは顔をしかめる。
「うわ、怖い。高倉さんも冬に健診に来た時に事務の人に意地悪されたみたいだけど……ひどいこと言われたね、千紗ちゃん」
そう言って心配そうな顔で一ノ瀬さんが私の顔を覗きこむ。
「もう午後の健診、始まっちゃうけど……大丈夫?千紗ちゃん」
一ノ瀬さんにそう言われて私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。