健康診断の甘い罠

健診が始まるとすぐにお客さんがひっきりなしに来るようになる。


「次は身長体重にお願いします」


そう言ってお客さんに用紙を渡して廊下に顔を出す。


「次の方どうぞ」


そう言うと立ち上がって私の方に歩いてくる人を見て、私はちょっと目を見開いた。


そういえば最終日に受けると言っていたかもしれない。


「こんにちは、山口さん」


そう言って笑った高倉さんの旦那さんに、私も微笑む。


部屋に入って耳につけるヘッドフォンを持った旦那さんは私に優しい笑みを向ける。


「結城とうまくいってるんだね。毎日あいつからうざいくらいにのろけ話聞かされてるよ」


そう言われて表情が曇ってしまった私を見て、旦那さんは驚いたように目を見開く。


あ、ダメだ。仕事中なのに顔に出しちゃった。


「え?何かあった?お昼にあいつ会いに来たでしょ?浮かれて上機嫌で戻ってきたけど……」


あの時は和弥くんが会いに来てくれて嬉しかったのに、なんでこんな風になっちゃったんだろう。


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