健康診断の甘い罠

あんな風に優しく、触れていたんだろうか。


そう思うとすごく胸が痛くなって、息が苦しくなる。


扉の向こうで、和弥くんがため息をついた。それにさえ呆れられてしまったのかと思ってビクッとする。


「あの頃はハグとかほっぺにチューとか、俺にとって大した意味なかったから。高倉さんに怒られても、こんなことで怒んなくていいじゃんて感じだったんだよ」


そう言われるけど、嫌な気持ちは消えなくてぎゅっと胸を押さえる。


泣きたくないのに、涙が出てきて唇を噛む。


私って、こんなに心が狭かったのかな。人を好きになるって怖い。


自分の知らなかった自分がたくさん出てきて、それはいいものばかりじゃなくて悪いものの方が多くて嫌になってしまう。


「でも今は、他の男が千紗にそういう事したら絶対嫌だなと思うし。だから高倉さんにも謝ったんだよ、すごい驚かれたけど。ねえ、千紗……顔見せてくれないの?」


哀しみを含んだ声でそう言われるけど、こんなみっともない顔を和弥くんに見せたくない。


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