健康診断の甘い罠
触られるよりは全然まだマシだけど、できる限り避けたいのが本音だ。
だけど、採血をやらないというわけにはいかないし……高倉さんと一緒だし頑張らないと。
血管は働き盛りの人達ばかりなんだから、病院に入院してる患者さんより百倍とりやすいはず。
そう思うけど緊張はとれなくて指先は冷たいままだ。
とりやすいけど、その分健診を受けるお客さんは痛みにシビアだ。
私達からするとどんなに細い血管からも採血ができる人が上手な人だけど、お客さんにとっては痛くない人が上手な人なんだよね。
針刺すんだから、痛くないわけないのに。痛くなかったのなんて正直偶然だと思う。
「とりあえずお客さんを男の人だと思わないで、ジャガイモかカボチャだと思ってやってみよう」
そう言って優しい笑顔を向けてくれる高倉さんに微笑んで私も頑張ろう、と気合いをいれるけどできるかな。
いや、頑張るしかない。そう思って私は胸の前で祈るように指を組んだ。