お兄ちゃん先生
まあ、何かママがミスをしたのか人手が足りないのかは分からないけど、ママがいないせいで今夜の食卓はお兄ちゃんと二人きりだ。

二人きりだと、いつもみたいに話が弾まない。前はこんなことなかったのに、お兄ちゃんも何を話していいのか分からないみたいに黙々と箸を動かしている。私は――取り敢えず、ママが作っておいてくれた筑前煮に箸を伸ばした。

「める」

「んう?」

「にんじんもちゃんと食べるんだぞ」

何を言い出すかと思えば。口に含んだ麦茶を吹き出しそうになっちゃった。

「ちょっと、真顔で言わないでよ」お茶吹き出したらどうするの。

「だってめる、いつも残すだろ」

お兄ちゃんはちょっとムキになって言い返すけど、お兄ちゃんにしては珍しく理論が破綻している。

私がにんじんが苦手で残していたのは小学二年生まで。因みにトマトは去年克服した。きっとお兄ちゃんの頭の中には、泣きそうな顔でにんじんを食べる幼女の私がいるんだろう。
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