お兄ちゃん先生
「あ、める」

「あ、お…先生」

中休み、廊下でお兄ちゃん――モトイ(使い方合ってる?)、楠木先生とすれ違った。思わず「お兄ちゃん」って言いそうになっちゃった。危ない危ない。

なぜ名字が私と同じかといえば、お兄ちゃんは私の父方の従兄だからだ。この学校で、それを知ってる人はあんまり多くない。だって私が友達に言わないから。

別に隠すつもりもその必要もないけど、自分から言う必要もないかな、って思って黙ってる。わざわざ自分から言って「ふーん。だから何?」って言われるのもつまんないし。

「める、体育館行かないの?」

中休みと昼休みは、大体皆体育館に行く。でも私にはそんな元気ないから、休み時間は学校の中をふらふらしてる。

「うん。何かメンドいし」

「こら、先生には敬語で話すんだぞ?」

しまった。私は慌てて口に手を当てた。勢いが良すぎて、ぺちって間抜けた音が鳴る。やだ、恥ずかしい…

「…すみません」

「いーよ。…じゃあ、図書室で本の整理手伝ってもらえるか?」

楠木先生は私に優しく笑った。それはお兄ちゃんじゃなくて、「先生」の顔だった。

「――はい」

私も微笑み返す。お兄ちゃん先生は、ちょっと嬉しそうに頷いて、図書室へ歩き出した。

お兄ちゃん先生。――悪くないな。

私はお兄ちゃん先生の背中を見つめて歩きながら、なぜだか胸がきゅんとしていた。
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