線香花火
手の小さな震えさえ許されない。
花火を持つ手に力が入る。

そう、僕らは今、どちらが先に落ちるか、という勝負をしている。

「な、なかなかだね、夏生くん」

「と、透花こそ」

緊張感が漂う。

「ねえ、夏生くん」

「なに?」

「…もし、もしもだけど…」

「うん?」

「…」

「どうしたの?」


あの時と同じ表情だ。


「…夏生くん」

「…うん」





「…なんでもないっ!」

そう言って彼女は笑う。
今まで見たことがないほどに、満面の笑みを浮かべて。



線香花火が落ちる。

僕の心が落ちる。




「そっか!」

僕も笑う。
今までこんなに笑った事があるか、と思う程に満面の笑みで。



夜道を二人並んで歩く。

「夏生くん、…ありがとう」


「…僕こそ」
「ありがとう…」


学校が始まったら、またくだらない話をしよう。そして、馬鹿みたいに笑い合いたい。――




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