じれったい
テレビを消すと、2階へと向かった。

向かった先は自室ではなく、その隣りである母の部屋だった。

ガチャッとドアを開けて電気をつけた瞬間、埃っぽいような湿っぽい匂いが鼻を刺激した。

母の部屋に入ったのは久しぶりだった。

最後に母の部屋に入ったのは通夜の前の日で、遺影に使う母の写真を選んでいた時だった。

「――ずいぶんと時間が経っていたんだな…」

通夜の席であの出来事があって以来、何となくだけど母の部屋に入ることができなかった。

閉めきっていたカーテンを開けると窓を開けた。

空を見あげると、東から徐々に水色に染まっていた。

もう朝が近いようだ。

朝が近づいている空から視線をそらすと、今度は部屋の中を見回した。

本棚には福祉関連の本や好きで読んでいた時代小説、机のうえには資格関係の本が置いてあった。

壁にはベージュ色の薄手のカーディガンがハンガーにかけられていた。
< 120 / 273 >

この作品をシェア

pagetop