じれったい
母の部屋は12年前――私が中学2年生のままで、時間が止まっていた。

もう2度と帰ってこない持ち主を、この部屋はまだ待っているのだろうか?

「そんな訳ないか…」

母はもう亡くなった。

暑い季節に交通事故でこの世を去った。

なのに私は心のどこかで母が帰ってくるかも知れないと期待している。

それが玉置常務が言った私の“悪い子”の部分なのかも知れない。

亡くなった母の帰りを待ち続けている、この部屋のように。

母の思い出が残っている部屋の中で私は深呼吸をした。

窓を開けたおかげで埃っぽい湿った匂いはもうなくなっていて、代わりに朝の冷たくて爽やかな空気が躰の中に入ってきた。

「よし!」

私は首を縦に振ってうなずくと、すぐさま母の部屋を後にした。
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