じれったい
「矢萩さん、少し座りましょうか?」

あっ、名字の方に戻ってる。

さっきは名前の方で呼んでいたのに。

名字の方が普段の呼び方だけれども、私はそれに名残惜しさと寂しさを感じた。

この気持ちは、一体何なの?

そう思ったけれど、
「――はい…」

私は首を縦に振って、呟いているように返事をすることしかできなかった。

玉置常務が私をソファーに座らせると、彼はその場から離れようとした。

「――あの…」

離れて欲しくなくて腕をつかんで止めたら、
「どうかされましたか?」

玉置常務が少し驚いたように聞いてきた。

私、何をしているの?

「い、いえ…。

すみません…」

自分のしたことに戸惑いながら、私は謝った。
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