じれったい
9・肩の重み
さて…どうしたものだろうか。

玉置常務の服を用意するために2階の自分の部屋に入り、タンスとクローゼットを開けていた。

「どうしよう、男物の服が1つもない…」

物心ついた時から母子家庭、母が亡くなってから私1人だったため、当然男物の服は1つもない。

「これじゃダメかな…」

そう呟いて押し入れに入っていたプラスチックの収納ケースから取り出したのは、高校の時に使っていた体操ジャージだった。

伸縮性は自在だから男の玉置常務が着ても大丈夫かも知れない。

ただ、ジャージには“矢萩”と名前が刺繍してあるけれど。

だけど身に着けていたスーツはびしょ濡れだし、何もない状態にさせると言うのはかわいそうである。

「仕方ない」

無理を承知なのはわかっているけれど、スーツを洗濯している間はジャージを着てもらおう。

そう思った私はジャージのズボンと体操着を手に持つと、1階へと下りて行った。
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