じれったい
13・ロンゲスト・タイム-Tamaki-
兄がうらやましかった。

誰からでも愛される兄がうらやましかった。

何でも与えられる兄に対し、僕は何も与えられなかった。

いろいろなものを持っている兄に対し、僕は何も持っていなかった。

兄になりたかった。

兄がうらやましかった。


Y県の『玉置旅館』と言う老舗旅館の次男として、僕はこの世に生を受けた。

2代目社長の父と女将の母、2つ上の兄が僕の家族だった。

だけども、家族はいつもバラバラの状態だった。

家族でどこかへ出かけたこともなければ、一緒に食事をしたことも1度もなかった。

父は常に母以外の女性のところへ渡り歩いている日々で、家にいないのが当たり前だった。

母はそんな父に愛想をつかして、やがてその愛情の矛先は長男としてこの世に生を受けた兄へと大きく向けられることとなった。
< 208 / 273 >

この作品をシェア

pagetop