じれったい
その年の夏くらいに、兄は美知留を連れて家へやってきた。

「かわいらしい人ね。

雅志さんにはもったいないくらいだわ」

母はそう言って兄の彼女である美知留を褒めた。

褒められたことに美知留は少しはにかんだように笑った。

それに対して、兄は満更でもないと言う様子だった。

楽しそうに談笑している3人を僕は離れたところから見ていることしかできなかった。

お似合いだと言って母から祝福されている2人の姿を、僕はこれ以上見ていることができなくて目をそらした。

「――何でいつもあいつばかり…!」

母からの愛情も美知留も、全部兄に奪われた。

僕が欲しいと思ったものは、全部兄が奪って行く。

「もう嫌だ…!」

自分の部屋で、僕は泣いた。
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