じれったい
もしかして、僕とぶつかったせいで泣いてしまったのだろうか?

「申し訳ありません、大丈夫でしたか?」

そう声をかけた僕に、
「大丈夫です…」

彼女は震えている声で答えた後、洟をすすった。

「途中までお送りしましょうか?」

続けて声をかけたら、
「いえ、すぐそこなので…」

彼女は小さく会釈をした後、目の前にあった一軒家へと入って行った。

本当にすぐそこだった…。

彼女が入って行った表札に視線を向けると、“矢萩”と書いてあった。

矢萩さんと言うのかと、僕は酔った頭でそんなことを思うとその場から立ち去った。
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