じれったい
――あんたなんかいなければよかったんだ!

高校を卒業して以来、連絡すらも取っていなかった兄に僕は33年分の思いを吐き出した。

兄さえいなければ、僕は幸せになれた。

母の愛情も美知留も、僕は手に入れることができた。

兄は僕からいろいろなものを奪って、いろいろなものを手に入れた。

何でも与えられる兄に対し、僕は何も与えられなかった。

いろいろなものを持っている兄に対し、僕は何も持っていなかった。

――だけど本当は、僕は兄がうらやましかったのかも知れない。

ガシャンッ!

僕の手から、コーヒーが入ったマグカップが滑り落ちた。

テレビに兄の名前が映ったその瞬間、僕は兄になりたかったのだと言うことを初めて知った。
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