じれったい
そう言った私に、玉置常務は泣き過ぎたせいで赤くなった目を向けてきた。

「あなたは私を母親思いの“いい子”だと褒めてくれたのと同時に、母親に依存している“悪い子”だとそう教えてくれました」

玉置常務が教えてくれなかったら、私は何も知らないままだった。

何も知らないままで、1人で一生を終えてしまうところだった。

「あなたが教えてくれたから、私は母への依存を絶ち切ることができました」

そっと、それまで抱きしめていた玉置常務の躰を自分から離した。

その代わり、彼の手をギュッと強く握った。

「玉置常務もお母さんに依存して、お兄さんに憧れを抱いている“悪い子”です」

そう言った私を玉置常務は見つめた。

「私が過去と向きあって母への依存を絶ち切ったように、あなたも過去と向きあってお母さんへの依存とお兄さんへの憧れを絶ち切ってください」

ちゃんと、玉置常務の背中を押せているだろうか?
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